(元ネタがコピペではありません。ご注意下さい)
目を覚ますと何時の間にか、前の座席に男がひとり座つていた。
男はPS VITAを持つてゐる。大層大事さうに膝に乗せてゐる。時折PS VITAに話しかけたりする。眠い目を擦り、いつたい何をやつてゐるのか見極めようとするが、如何にも眠かった。P4Gかモンハンでもやつてゐるのか。なんとも手頃なよいゲーム機である。男は時折笑つたりする。
「でり」
PS VITAの中から聲がした。頭でも光らすやうな男の聲だった。
「聴こえたか」
男が云つた。天然由来の糖のやうな聲だ。うんとも否とも答へなかつた。夢の続きが浮かんだからだ。
「だれにも云わないでくれ、特に惇には」
男はさう云ふとPS VITAを持ち上げ、こちらに向けて中を見せた。
PS VITAの中には已吾生まれのTさんがでつちりと入ってゐた。
頭がつるぴかだ。勿論善く出来た人形に違ひない。人形の胸から上だけがPS VITAに入つてゐるのだらう。何ともあどけない顔なので、つい微笑んでしまつた。それを見るとPS VITAのTさんもにつこり笑つて、「でりー」と云つた。
ああ、生きてゐる。
何だか酷く男が羨ましくなつてしま
「そいつは偽者ですッ!!!!」
汽車の窓から飛び込んで来たのは、已吾生まれのTさんだつた。
「御大将と見知らぬ誰かしらを惑はす魍魎めッ!デリーッ!!」
Tさんの頭が光ると、PS VITAからどろどろと黒い影が伸び、断末魔の悲鳴をあげて消滅していつた。
「悪来、わしは」
「お戻り下せえ。わしはゐなくなつても、御大将はお一人ではありやせん」
ニ人は暫く見つめ合つてゐたが、いつの間にかTさんは消えてしまつてゐた。
次の駅で大将と呼ばれた男は降りた。
私は捨てられたPS VITAを拾つて、眞つ黒な画面を見てゐた。壊れてしまつたのならば、自らの手であの男を―
先づは壊れていないPS VITAを用意しなくてはならぬ。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。